学会賞

日本相続学会学会賞選考委員会ならびに表彰規定

第二回学会賞(2017年11月授与)

■著作賞

著作名「事業承継・相続対策に役立つ家族信託の活用事例」平成28年10月 清文社
著者:長崎 誠 様(公証人)竹内裕詞 様(弁護士)小木曽正人 様(公認会計士・税理士)丸山洋一郎 様(司法書士):4名とも本学会会員

【要旨】
家族信託を利用して事業承継、相続対策を行う実務家のための解説書として、実際に家族信託を組成して活動を行っている公証人、弁護士、公認会計士・税理士、司法書士が、自らの経験に基づいて執筆したものである。
前半は家族信託の概要と信託法の解説を、後半は実際に執筆者らが担当した案件の内容と家族信託組成のために作成した書面や手続について紹介している。近年、家族信託が事業承継、相続対策の手法として注目されており、家族信託をテーマにした著作が多く執筆、発行されているが、信託で対応が可能と思われる事案の提案や、仮想事例に対する信託条項のひな形が紹介されているものの、実際に信託を組成するときに直面する問題への対応には参考にならないものも多かった。本書は実際に信託を組成した経験を踏まえて、信託を組成したときに工夫した事柄(例えば会社の目的の登記時の登記官との折衝、会社定款の定め方、総会・役会議事録の記載内容、税務申告書類の作成方法など)を紹介し、家族信託を組成する実務家の需要に応えようとするものである。

【査読意見書から】
本書は、実務家が事例に基づいて家族信託の実務を学ぶ入門書としては、分かりやすく網羅的に執筆されている。「相続問題の啓発及び教育に著しい貢献をしたと認められる実践的な著作」に該当する。
任意後見と信託の役割分担は違いますが、新しいスキームを作ることで、高齢者が快適に生活でき、環境を整えてあげる工夫が良く記述されていて、実務を実行していくうえで参考になる書籍である。

■業績賞

業 積「知的障がい者の後見・遺言を支援する実践活動」
林 俊和 様(特定非営利活動法人 さぽさん 理事長):本学会会員

【要旨】

知的障がい者の成年後見の分野では、これまでは専門職の後見人であっても、障害の理解が十分になされなかったり、財産管理に主点を置いて後見がなされ、被後見人の希望(ニーズ)に対応がされないことも散見された。林氏は、2003年から社会福祉士として個人で後見人を受任し、後見事務を行う中で、知的障がい者の被補助人が自分の相続について希望を述べ、それを実現させるために公正証書遺言を作成する支援を経験して、被後見人の相続について研究するようになった。現在後見相当と考えられる知的障害者も、自分の相続について希望がある事例に関わりながら、後見の申立の前に遺言を作成することが出来るのではないかと、弁護士と相談しながら支援をしている。後見についても、個人ではなく継続して身上監護をしていける、新たな法人後見の組織の設立を準備している。本人の意思に基づく後見が、国において検討されている情勢の中で、林氏の活動は本人に寄り添う後見や、相続のあり方についての課題や問題の提起をしている。
(林氏著:事例研究発表「知的障がい者の後見・遺言を考える」の最終項より:『かわいそうの心からは、特別扱いが出てくる。人として尊重する気持ちからは、(合理的)配慮が生まれる。障害があっても、なくても皆が尊重される社会を願っている。』)

【査読意見書から】
自らの意見を表明する機会が得られにくい知的障がい者の相続に係る支援において、ともすれば軽視されがちな当事者の意思を「生きた証」として後生に生きる親族や関係者に継承していく営みの重要性を主張する候補者の価値および実践姿勢は、相続に係る実務家で構成される貴学会の会員にも広く周知されてほしいと、社会福祉実践及び研究に携わる査読者の立場からも強く願うものである。候補者は、知的障害者の権利擁護、とりわけ相続や遺言書作成に係わる支援において、障害者総合支援法や成年後見制度等の制度的限界や制約を超克すべく、生活支援の拠点と共に法人後見が可能な拠点として特定非営利活動法人を設立し、生活者の視点で障がい当事者に寄り添う伴走型支援に従事してきた。
障がい者の家族が、安心して任せられる組織をというところから、法人後見及びグループホームの運営を実現。これをきっかけに地域での支援を広げている。少子高齢化の時代には地域での支援が不可欠であり、支援の具体的方法として有用なものと考えます。

第一回学会賞(2016年11月授与)

■論文賞

論文名「民法から争族を見る -遺言・贈与と遺留分-」
常岡 史子 様 (横浜国立大学 国際社会科学研究院 教授)

【要旨】
民法の遺留分制度は、被相続人の贈与や遺言よる財産処分に対して一定範囲の相続人に相続財産の一部を保障する制度とされており、そこには共同均分相続主義のもとでの相続人間の公平や生活保障等の意味がある。しかし、被相続人が一部の相続人のためになす財産処分は、往々にして事業の承継や特別な保障を必要とする相続人の生活の保護という目的を持ち、死後の財産承継について示されたその意思をどのように貫徹すべきか、また、そのような死者の意思に対して相続人の遺留分権はどこまで守られるべきかという問題が生じる。しかもこの問題は、通常、被相続人の死後に残された共同相続人間の紛争という形で現れる。本稿では、遺留分をめぐる近時の最高裁の4判例を題材に、相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定方法、相続分の指定や特別受益の持戻し免除の意思表示に対する遺留分減殺請求、価額弁償請求権と弁償額の確定について考察する。(論文より)

■著作賞

著作名「延納適用と相続税納税制度」平成27年9月 一般社団法人大蔵財務協会
右山昌一郎 様 (日本税務会計学会 顧問)

【要旨】
相続開始後に延納制度があり、所得税・法人税にみられる確定納税前の予定納税制度に準じた相続税予納制度が皆無であることは、国が相続税納付の困難性に対して相続税の納税義務者の自主的納税に配慮していないものと解することができます。
相続は、相続税を支払うために存在するものではありません。
むしろ被相続人の相続の目的は、相続人の事業承継又は居住用財産の取得等による生計の安定を願う幸福追求権に求められます。そう考えた場合、相続税は推定被相続人の生存中に相続税納税負担の解消方法を生前の制度として考慮すべきものです。
したがって、被相続人が生前に所有財産を目安として、推定相続人のために相続税を生前に遺言信託の一種の相続税納付条件付信託として、予納しておくことは、我が国の相続を包括承継という本来の姿に導くものであり、かつ、推定被相続人の家族に対する最大の愛情の表現であるといえます。そうした意味から、以下に述べる「相続税予納制度(案)」を提起するものです。(著書より)