第9回学会賞(2024年10月授与)
該当なし
第8回学会賞(2023年10月授与)
■論文賞
著作名 : 「ドイツ法における自筆証書遺言の保管制度」
発 行 : 学会誌 第10号 2022年10月
著 者 : 小西 飛鳥 氏(平成国際大学法学部 教授)
【要旨】(論文の冒頭を引用)
ドイツにおける遺言制度の概要及び我が国でも導入された自筆証書遺言の保管制度について、ドイツでは2012年から運用されている自筆証書遺言の保管制度の概要、特に連邦公証人会が管理する中央遺言登録簿についてとりあげた。また市民への情報提供の方法、利用状況についても触れている。
【審査意見書から】
本論文はドイツの遺言およびその保管制度について、全体像を適切かつ簡潔に整理し、論じたものである。日本においてまさに注目を集めているテーマであり、テーマそのものが重要な意義を有する。また、ドイツの保管制度について、保管の内容や通知の仕組み、費用に至るまで概要が網羅的に述べられており、資料的価値の高いものとなっている。日本における今後の保管制度のあり方を検討していく上で、参照すべき論文といえる。
他方で、制度の概要を紹介するという趣旨で書かれているため、やや引用元が限定的であり、かつ、制度の問題点や関連する議論状況等にまで言及するには至っていない。しかし、このことは、テーマに発展性や奥深さがあることにつながるものであって、本論文の価値を減じるものではない。以上のことから、論文賞の授賞に値するものと考える。
日本とドイツの自筆証書遺言保管制度の共通点、相違点が明確に述べられており、とても興味深く拝読いたしました。我が国の自筆証書遺言保管制度は、比較的新しく発展途上の段階にあると思われますが、将来において、より国民の権利擁護に適した制度に発展させるには、本論文の果たす役割は極めて大きいと考えます。
第7回学会賞(2022年10月授与)
■論説賞
著作名 : 「所有者不明土地をめぐる令和3年民法改正等と相続実務への影響」
発 行 : 学会誌 第9号 2021年10月
執筆者 : 松尾 弘 氏(慶應義塾大学大学院法務研究科 教授)
【要旨】(論説の冒頭「はじめに」を引用)
所有者不明土地問題への対応を主眼にして、令和3(2021)年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」(公布は令和3年4月28日法律24号)および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(同じく法律25号。以下、相続土地国庫帰属法)が成立した。これら2つの立法(以下、これら2立法を総称するときは、「令和3年民法改正等」という)は、所有者不明土地の発生予防、利用管理および解消促進の各側面から、所有者不明土地問題への包摂的な対応を試みたものといえる。本稿は、それらが相続実務に与える影響に焦点を絞り、その成果と課題を検討することを目的とする 。
【審査意見書から】
相続実務者(特に、遺産分割を中心とした相続発生後の処理に携わる者)においては、このたびの法制度の見直しに関し、登記の義務化以外の部分は、まだまだ認識が不十分な傾向がみられるように個人的には感じております。
本件論説は、法務省提供の情報などで改正法の内容をなぞっても、なかなか抽出し難い、制度相互の関係や実務的な影響について詳しく説明されており、相続実務に携わる者にとって有益であると思います。(審査員自身も、査読を通じて、法制度について理解が深まりました。)
所有者不明土地問題への対応を主眼にした、令和3年民法改正等の過程、内容、意義、今後の課題について、論点を整理し、的確に論じている。今後、所有者不明土地問題や遺産相続を議論、研究する上で基盤となる論説である。
■著作賞
著作名 : 「所有者不明土地の法律実務」
発 行 : 株式会社プログレス 2022年4月
執筆者 : 吉田 修平 氏(弁護士)
【要旨】(著書まえがきを一部引用)
数年前に所有者不明土地問題が話題になった頃から多くの研究会等に参加してきましたが、そこで感じたことは、「総論は分かるが、各論は分かりにくい」というものでした。特に、最初の頃は民法や不動産登記法の議論をあまりせずに、再開発や土地収用等のかなり専門的な細かい話だけが行われていたように感じられました。しかし、所有者不明土地問題を解決するには、民法や不動産登記法の改正が欠かせないと思っていました。平成31年に設置された法制審議会民法・不動産登記法部会では、民法や不動産登記法の問題について真正面から議論し、極めて短い時間で抜本的改正を行いました。法制審議会の委員の先生方のご努力に対しては、深甚なる敬意を表したいと思います。法制審議会の議論では、所有者不明土地問題の全体を、「予防」、「利用」 および「解消」の3つに分けて進められました。私は、この議論の進め方が非常に分かりやすく感じたので、 本書でもこの分け方に従って解説しています。
【審査意見書から】
所有者不明土地関連法の施行日がせまる中、時宜を得たテーマについて、斬界の第一人者がポイントを絞り、通読できる解説書を発表した意義は大きい。関連書籍は数多あるが、本書ほど分かりやすく簡潔明瞭に記載されたものは見当たらない。内容的にも、31の章立てで所有者不明土地関連法を網羅し、具体的なケースの検討の部分も、実務でよく発生するような事例が取りあげられており、改正法の適用場面を把握するのに適切である。実務家に好個の一冊であるといえる。
筆者がまえがきで書かれていますように、不動産に関連する仕事に従事する人向けに、わかりやすく解説するとの狙いは十二分に達成されていると思います。また、今回の改正について、所有者不明土地の発生の予防、管理、解消に分類し整理されており、ページ数が少ないのにもかかわらず、非常にわかりやすく構成されていると思います。設例の示し方も実務で必要な事案を提示され、図も効果的に使われており、評価すべきと思いました。可能であれば、本書を手掛かりに、詳しく知りたい人向けの案内(参考文献)もあったらなお良かったかもしれません。
第6回学会賞(2021年10月授与)
■著作賞
著作名:「不動産相続の法律相談」 青林書院 2020年8月発行
執筆者:吉田修平(弁護士)遠矢悟史 (弁護士) 竹内裕詞(弁護士)小池知子(弁護士)永野達也(弁護士)片倉秀次 (弁護士) 茂野大樹(弁護士・税理士)宮尾耕平 (司法書士) 上里好平 (弁護士) 赤堀文信 (弁護士) 大野健一 (弁護士) 佐々木好一(弁護士)西田誠(弁護士)水上卓 (弁護士) 北村清孝 (司法書士) 稲葉光治 (司法書士) 水野菜木 (司法書士) 森川紀代(弁護士)鈴木崇裕 (弁護士) 岩永隆之(弁護士)友田順 (弁護士) 編集代表:吉田修平(弁護士)
【要旨】(巻頭言を一部引用)
本書は、重要かつ高額な資産である不動産に発生する様々な相続問題について、具体的な解決策を示すとともに、関連する多くの基本的な法律上の概念についても解説するものです。不動産は、そこに居住したり、店舗やオフィス等として利用する等の重要な資産であるとともに、一般的に国民が所有するものの中で最も高価な財産です。したがってある人が亡くなり相続が発生した場合、亡くなった人の所有していた不動産についての熾烈な紛争が発生する可能性が高まります。不動産については、対象となる法律が、民法だけでなく借地借家法や不動産登記法等の多岐にわたるため、不動産に関する問題の処理は複雑かつ難しいものとなりがちです。 また、相続についても、2018年7月に民法(相続法)が改正され、配偶者居住権等の新しい制度が創設されました。このようなことから不動産に関して相続トラブルが発生すると、その解決はますます難しくなっているとの現状があります。 本書では、本学会会員21人の執筆陣が、実務上よく生じ得る不動産と相続に関する解決困難な問題をQ&A方式により網羅的に取り上げ、具体的な解決策を示すとともに、関連する多くの基本的な問題についても丁寧な解説を試みています。
【審査意見書から】
著作名のとおり、不動産相続を中心とした遺産相続における各種論点がQ&A方式でまとめられており、「事例→回答要旨→問題の所在・解説・あてはめ」という構成も大変読みやすかった。また、内容面についても、不動産相続で起こり得る法的問題や気を付けるべき論点が多く取り上げられており、相続人本人だけではなく,代理人となるべき弁護士にとっても大変有用な実務書ではないかと思う。 なお、「不動産相続の法律相談」という著作名であるので、紙面の都合上も相続一般についてのQ&Aは省いてしまい、より不動産相続に特化した内容で構成していただくと、類書の差別化となり、さらに弁護士等の実務家にとって必携の実務書になるのではないかと思う。
第5回学会賞(2020年11月授与)
■論説賞
論説名:「相続制度が生み出す所有者不明土地」学会誌第7号掲載
著 者:福井 秀夫 (政策研究大学院大学 教授)
【要旨】
日本の相続制度、所有権法制は、不動産の共有を無条件に認めるため、土地の権利が細分化し、権利調整がきわめて困難となり、または事実上不可能となりやすい。共有不動産は、民法により、売却などの処分のためには、共有者全員の一致が必要であり、結果として相続が繰り返された土地などでは、いかに有効利用の可能性が高いものでも、未利用のままとなりやすい。
土地の固定資産税と土地譲渡所得税が、必ずしも有効利用を促進する内容となっていないことも問題をより深刻化させている。資産価値の乏しい建物に対して多額の固定資産税が掛かることも、適切な土地利用投資を妨げている。売買は、土地をより有効利用できる可能性の高い者に所有権を移転する機能を持つが、登録免許税、印紙税、不動産取得税は、すべて流通を阻害する効果を持ち、やはり有効利用を阻害している。登記が、真実の所有者の公示機能を果たしていないことも、問題をより深刻にしている。
所有者不明土地を今後発生させにくくするため、所有権移転の届け出義務創設、不動産課税の見直し、相続法・民法改正による不動産共有の制限を行うとともに、発生した所有者不明土地の利用のためには、収用制度の改善、民間事業のための土地所有権裁定の仕組みの創設、共有物処分の全員一致要件の撤廃等を図るべきである。
【審査意見書から】
近年問題視されることの多い所有者不明土地の問題について、相続制度において不動産の共有状態を認めていること、共有不動産の処分には共有者全員の同意が必要であるとされていること、固定資産税等の税制度も不動産の有効活用を阻害していること、登記義務がなく、登記手続も煩瑣であることなど様々な要因を挙げられているばかりでなく、それぞれについて簡潔ではあるものの解決の方向性が示されており、今後の研究や立法に資するものであると考えられる。また、日常は立法論を検討することの多くない実務家にとっても、担当事件の解釈の方向性を考える上でも、今後の立法動向を検討する上でも、資するところが大きいといえる。
本論説の評価のポイントは、以下の三点であり、いずれも高く評価できる。
(1)総合性 行政実務における経験、研究活動の成果に基づき、民法、行政法、税制、法と経済学、公共哲学など極めて幅広い分野における知見を総合して、多角的に論じている点。(2)具体性 不動産課税の見直し、相続税・民法改正による不動産共有の制限、民間事業のための土地所有権裁定の仕組みの創設など、多岐にわたる極めて具体的な政策提言は盛り込まれている点。(3)発展性 多岐にわたる極めて具体的な政策提言が盛り込まれているほか、ロールズ基準から相続税を贈与税なみに上げることも提言されており、各界における今後の議論への影響が大きい点
■論説賞
論説名:「配偶者居住権の業務上の問題点について」学会誌第7号掲載載
著 者:吉田 修平 (吉田修平法律事務所 弁護士)
【要旨】
このたびの相続法の改正により、配偶者居住権が創設された。配偶者居住権はまったく新しい権利である。賃借権類似の法定債権と呼ばれているが、無償で終身の間自宅に住み続けることができる権利であるため、使用貸借にも類似する権利と言われている。本稿では、配偶者居住権の特色を紹介するとともに、今後の実務の運用上問題となるであろう諸点について検討を加える。
【審査意見書から】
本論説は、今般の相続法改正により新設された配偶者居住権の制度に焦点をあて、実務上問題とされる点につき、詳細に検討したものである。配偶者居住権は、残された配偶者の生活を保障するために賃借権類似の法定債権として新設されたものであり、居住用不動産については、配偶者居住権の保障を第一目的とするように運用されることが求められるであろうところ、本論説では、いくつかの具体的事例をもとに、それが難しい場面があることを指摘する。
相続制度は、そもそも、被相続人の生前における財産処分の自由と、相続開始後の相続人の財産処分の自由という、いわば、被相続人の意思の尊重と、相続人の権利保護との間で、いかにバランスを保ち、相続人間における公平な財産承継を行うかという、双方向への配慮を必要とする法制度である。また、相続財産は個人が所有する財産を承継する制度であると同時に、家族の潜在的持分の清算や家族の生活保障に関しての財産という側面をも有している。この点、本論説では、例えば「第4 建物が譲渡された場合」において、建物所有者が建物を売却した場合の配偶者居住権の法的関係について指摘し、論じ、「第6 借地上の建物の場合」では、建物所有者の地代不払いの場合につき、建物所有者の権利行使に対し、どのように配偶者を保護するかにつき検討する。相続が、単なる「財産承継」ではなく、家族それぞれの事情を反映した財産承継を考慮することからすれば、著者が指摘するような各事例につき、実務上どのような対応をすべきかについては今後の判例・実務の集積が待たれるところである。このような問題点を指摘し、整理する本論説は、今後の実務に大いに影響を与えるものである。
■論説賞
論説名:「相続分の無償譲渡が民法903条1項の「贈与」に当たるとされた判例」学会誌第7号掲載
著 者:森川 紀代 (森川法律事務所 弁護士)
【要旨】
最高裁判所は、平成30年10月19日、共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡が、譲渡人を被相続人とする相続において、譲受人の特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に算入されるか否かについて判断を示した(最高裁第二小法廷平成30年10月19 日判決 平成29年受第1735号)。
本稿では、当該判決(以下「平成30年判決」という。)について問題となった点を整理した上で、同判決後に残された問題点に触れることとする。また、平成30年7月6日,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第 72号)が成立し 同月13日公布)、令和元年7月1日から施行されたところ、平成 30 年判決の判断が改正法の施行によりどのような影響を受けるのかについて述べる。
【審査意見書から】
本論説は、共同相続人間でなされた相続分の譲渡が、特別受益として遺留分算定の基礎財産に算入されるかが争われた事案に関して検討したものである。最高裁平成30年判決は、共同相続人間の無償による相続分の譲渡につき、民法903条第1項に規定する「贈与」にあたると判断するところ、本論説はこの点につき第1に、最高裁平成13年判決が示す相続分譲渡が有する本来的な性質を起点とし、相続分の譲渡は財産の移転であるか否か、遺産分割の遡及効との関係につき問題点を指摘し、第2に実務上の問題点として、特別受益の評価上の問題点や改正法下での解決策についても言及する。相続分の譲渡については、著者も指摘するように、個々の相続により、経済利益にも差があり、経済的価値にも差があること、遺産分割に遡及効があると同時に、相続財産の性質によっては、相続開始と同時に承継が発生するものもあり、このような異なる財産上の承継についても、実質面を考慮し判断をする必要があること、特別受益については、遺産分割にあたり持戻しを行うことからその評価方法も問題となるところである。この点、著者は最高裁平成30年判決が言及していないことを明らかにし、有償譲渡の場合についても「贈与」に当たる場合があることを指摘する。
特別受益は相続人間での公平な財産承継を図るため、いわば調整機能を果たす役割があるところ、本論説は経済的利益や経済的価値に着目し、特別受益の趣旨も踏まえながら、実務上の問題点につき、改正後の変化も視野にいれながら論じており、今後の特別受益の解釈に当たり、影響を与えるものである。
■著作賞
著作名:「相続法改正 新しい相続実務の徹底解説」―概説と事例QA 青林書院 2019年9月発行
執筆者:石川登三男(司法書士・行政書士)池浦 慧(弁護士)池畑芳子(税理士)岩永隆之(弁護士)大杉麻美(日本大学法学部教授)小池知子(弁護士)齋藤清貴(弁護士)佐々木好一(弁護士)茂野大樹(弁護士)竹内裕詞(弁護士)森川紀代(弁護士)吉田修平(弁護士) 編集者:吉田修平(弁護士)森川紀代(弁護士)
【要旨】
平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律 (平成30年法律第72号)が成立し、相続の分野について、昭和55年以来、約40年ぶりとなる大きな改正が行われました。本書は、改正の内容を概括的に把握できるよう「概説」の項にて改正の経緯や改正された内容を説明するとともに、改正となった項目ごとに設問を設けてQ&Aの形式で、より詳細に新しい制度や具体的な事例等について説明しています。相続法について十分な知識を持たない方が本書を手に取られることも意識し、設問においては、改正された内容のみならず関連事項にも触れて実務上のポイントを説明しています。
一般社団法人日本相続学会(以下「日本相続学会」といいます)は、学者のほか、弁護士、税理士、司法書士等の相続手続に関する知識や実務経験が豊かな会員で構成されており、2度のパブリックコメントのいずれにおいても、学術的観点及び実務的観点から法制審議会が作成した試案を検討し、試案の全項目について意見書を作成し提出しました。本書は、そのようにして相続法改正の審議段階から審議の行方を見守り、意見書の作成に携わってきた日本相続学会のメンバーが執筆を担当しています。
【審査意見書から】
本書は、その題名にあるように、新しい相続実務の徹底解説を試みたもので、実務での利用を主な利用対象として記されたものと考えられる。その方向性は、構成面においても内容面においても、随所に表されており、特に改正事項の概説とQ&Aという構成は、ある特定事項を調べたいという多くの実務者にとって、辞書代わりとしての利用に応えるものとなっており、実務への貢献度は大きいものと考える。内容面においても改正の趣旨や制度新設の趣旨が問題の背景とともに分かりやすく解説されており、改正事項の理解を深めるのに寄与するとともに、それを基に新たな論点について考える手がかりを与えている点を評価したい。
反面、成立要件等各項目で重複しているなどの課題も見受けられるが、これは各項目の独立性を重視し、最初から通して読むような利用ではなく、項目ごとに読み切るという実務家の利用の仕方を想定したものと考えられ、実務家にとってはむしろ有用とも考えられる。また、実務に欠かせない税情報についても論じられている点や、自筆証書遺言の保管制度に関連する参考書式が豊富である点も、相続実務の徹底解説というコンセプトに合致し、評価したい。
■業績賞
業績内容:「家族信託普及への貢献」
業績者:宮田 浩志 (宮田総合法務事務所 司法書士・行政書士)
【要旨】
宮田浩志氏は、家族信託のパイオニアであり、多数の実務を実践を行い、家族信託に精通している。数多くの講演に加え、(一社)家族信託普及協会代表理事を務め、日本における家族信託の普及に大きく貢献している。著書「はじめての家族信託」は、分かりやすい図解を用いた一般市民向けの家族信託入門書として位置づけられる。一般市民が家族信託の正しい理解を深める教材として高く評価でき、すでに増刷がなされている。この出版を計画し、実行された業績は、相続に関する取り組み及び、それにかかる制度等に関して、将来の発展に寄与すると認められる 。
【審査意見書から】
宮田浩志氏は、今後の認知症患者の増大が想定される中、かなり早い段階から民事信託の分野に取り組まれてきた点で、民事信託実務のパイオニア的存在である。民事信託の「普及」という点については、一般社団法人家族信託普及協会の代表理事として、どの団体にも先駆けて組織的に行ってきた点は、評価されるべきだと思われる。民事信託はいまだに社会的に一般化しているとは言えない状況にあるところ、上記団体を通じて実務家への啓蒙や養成を行い、あるいは精力的に執筆やメディア活動、金融機関等の社会インフラへの働きかけを通じ、社会への影響を一定程度与え続けている点も評価されるべきだろう。
さらに、その主張に目を移すと、次の2点が注目される。①民事信託は老後の財産管理方法の枠組みの一つにすぎないと位置づけ、硬直的な制度運用で批判の集まりがちな法定後見制度の社会的有用性についてもきちんと正当な評価を与えた上、福祉型信託との併用の意義を説くなど、他の法的枠組みと民事信託との適切な組み合わせの有用性について提唱している。②障がい者の「親なき後の問題」について、民事信託という枠組みの形式を重視するにとどまらず、それを担う実務家の「想い」や目前の困ったクライアントを支えていくという「覚悟」こそが、実質としてもっとも重要だと指摘している。超高齢社会を迎えるにあたって、現状の実務家にもっとも必要だと思われる上記①②のような認識について、今後も積極的に主張、展開されていくことを切に期待したい。
第4回学会賞(2019年10月授与)
■論説賞
論説名「保険料贈与と法人契約の生命保険を活用した経営者の相続対策」学会誌6号
著者:井殿圭一郎(税理士官報合格者)
【要旨】
企業経営者の持つ資産の多くは自社株や事業用の不動産などの事業用資産が占めており、これらは事業を継続するうえで換金や分割が困難である。残りの家事用の資産でも自宅のように換金が困難なものもあり、また、個人資産を金融機関の借入の担保に供していることも少なくない。事業承継後も会社の経営権を安定させるためには自社株を分散させずに後継者に集中する必要があるが、他の共同相続人への配慮も必要であるため現金や預貯金が十分になければ遺産分割が困難なケースも生じうる。さらに、業績が好調だったり土地など含み資産を抱えたりしている会社の株価は高くなるため、相続税の納税についても事前の準備が必要である。
本論では国税庁の統計や中小企業庁の中小企業白書を通じて相続税の課税実態や中小企業経営者の抱える事業承継の問題について概観し、生命保険の持つ機能を明らかにしたうえで、法人と経営者個人に提案した生命保険の活用事例を示す。
【審査意見書から】
事業承継税制の贈与税・相続税の納税猶予の特例措置の活用により円滑な事業承継が期待されている中で、生命保険を活用したスキ-ムが良く記述されている。
特例措置により自社株の移転に伴う税負担は大きく軽減されるが、自社株を取得しない他の共同相続人の負担は変わらない。経営基盤を安定させるには、自社株を後継者に集中させる必要があるが、他の相続人にも配慮が必要である。その点で活用事例には、生命保険を活用した株価抑制・相続税の非課税の活用・生前贈与のスキ-ムの実務的な見地からの検証がされている。
長年にわたる実務から生まれた視点による生命保険の事業承継・相続における活用・効果について、データに基づく、背景分析から具体的手法まで、分かりやすくまとめられている。経営者の相続・事業承継という、争いが起こりやすい課題を解決するための生命保険の利用に対し、さらなる研究の基礎となるものと思われる。
第3回学会賞(2018年11月授与)
■論説賞
論説名「相続税法における『否認規定』の再考」
川股修二様(税理士・札幌学院大学・大学院 法学研究科教授)
【要旨】
近時の相続税法の改正にともない納税者が増加していることを背景として、納税者の依頼を受けて、タックス・プランニングを行うことが多くなってきている租税専門家が、今一度、自らのプランニングが相続税法に規定される「否認規定」との関係において、充分検討されているか否かを確認するため、さらに、いわゆる相続ビジネスを展開する主催者からセミナーの講師依頼(筆者の経験から、昨今は、家族信託や一般社団法人の活用をテーマとする依頼が多い。)を受けて、ややもすると、租税節約(節税)の境界を飛び越えた租税回避(もしかすると、脱税とも考えられる。)ともとられかねない講演をおこなうことになる租税専門家が、その講演の際に思慮すべきことを示唆することを目的とする。
【審査意見書から】
本稿は、相続税法に着目をした「否認規定」についての考察である。本論稿のストーリー性はよく練られており、個別否認規定の考察が、「おわりに」の残された問題への適示に接続する流れは読みやすいものであった。論旨には一切のブレがなく、論理一貫している点も評価されるべきポイントであるといえよう。
ところで、筆者が論じる「否認」とは何を指しているのであろうか。一般的な講学上の理解としては、課税要件の充足を免れることが「租税回避」と解されてきたところであるところ、かかる定義からも明らかなとおり、「租税回避」は課税要件を充足していないのであるから、「課税されない」ということを意味していると解されるところである。換言すれば、租税回避とはセーフハーバーと解されるのであるが、これが否認されるということは、セーフハーバーとしての意味付けを課税庁が否定するということと同義である。更に別言すれば、課税庁は否認によって「租税回避」であることを否定することになるのである。
本論稿は、かような否認については実定的根拠を必要とするとの立場からのものであり、この立場は租税法律主義の観点から妥当な視角であろう。その際に、表層的に規定の存在の是非を論じるのではなく、同規定の「発動」論という観察手法を採っている点には独自のものを感じることができる。また重要な点は、本稿が実務的関心に裏付けられたものであるという点である。いわば、法理論的にいえば、情報適用上の要件事実論ということになるのであろうが、かかる議論の実務的視角からの発信の重要性は強調されてしかるべきであろう。本稿はかような意味で重要な論点を提示しているということができるように思われる。
■論説賞
論説名「寄与分に関する近時の裁判例と争族防止」
小西秀明様(弁護士)
【要旨】
寄与分の算定方法について、寄与行為の類型にしたがい標準的な算定方法が提唱されていたが、近時における裁判例を見ると、提唱されていた算定方法とは必ずしも同じくしていない。例えば、寄与行為の類型のうち、家業従事型では、給与等として得られるべき額を基に計算するのでなく、相続財産の全部又は一部の評価額に裁量的割合を乗じて算出している傾向にあり、裁量的割合の幅は事案により大きく異なる。また、療養看護型では、日当などの単価を定めた上で期間と裁量的割合を乗じたものもあるが、相続財産の評価額に一定割合を乗じたり、計算することなく一定額を認めたりしているものもあり、算定方法が定まっているとはいい難い。もともと寄与分が認められる要件は厳しく、また、寄与分が認められたとしても、近時の裁判例の傾向からすれば、相続開始前に、寄与分の有無、額などについて見込みを立てるのは困難であるといえる。したがって、遺言の作成や、寄与に見合うだけの金員を定期的に受領して持戻し免除の意思表示をすることなどで、寄与分に関する「争族」を防止したい。
【審査意見書から】
本論は、寄与分に関する近時の判例を、現象別・時系列に手際よく紹介し、実務家の視点から、判例における寄与分の算定手法を分析している。寄与分は「特別の寄与」をすることが重要であり、親族における一般的扶養を超えて「寄与」が認められることは難しいとの実務的視点を展開するとともに、寄与分に関する「争族」を防止するための具体的手法も提示する。今後、被相続人と相続人との生前の関係性のみならず、相続人以外の者が貢献する場合の法的評価も問題とされるようになるところ、現時点での「寄与」の法的評価について一旦立ち止まって考えることは、今後の「特別寄与料」算定に際しても1つの検討材料を提供すると思われる。
寄与分の主張や寄与分を定める処分調停は,遺産分割の協議や調停に伴い主張され,又は申し立てられることが多く,寄与分についての裁判例を整理することは,実務上,非常に有用である。特に寄与行為の類型ごとに一般に提唱されている算定方法と,裁判における算定方法の違いを提示したことは,従来の研究,考察への重要な問題提起といえる。平成30年相続法改正では,特別寄与料の制度が新たに設けられており,本論説の重要性も更に大きなものといえる。
■業績賞
業績「生命保険信託の開発とサービス提供」
プルデンシャル信託株式会社様(本学会賛助会員)
【要旨】
生命保険金は契約者=被保険者の場合、契約者は保険金受取を見届けることが出来ません。さらに受取人が財産管理能力に不安がある場合には、保険に加入したものの、安心を得ることが出来ませんでした。そこで受賞者は日本で初めて「保険金受取人の財産管理」を信託という制度を通じて補完するビジネスモデルを開発しました。・受取人が未成年・知的障がいがある場合・認知症等で、単独では十分な財産管理を行えない場合やその可能性がある場合・「相続対策」などの事情により、遺族に対して計画的に財産を渡す必要がある場合
・保険金を活用し、公益団体などへの寄付を行いたい場合 上記のような場合に活用されており、すでに900件以上を受託している。
【審査意見書から】
受賞候補者の親会社であるプルデンシャル生命は、1992 年にリビング・ニーズ特約という被保険者が余命 6 か月以内と判断されたときに(存命でありながら)死亡保険金を支払うサービスが付加された商品を本邦初で開発しその後他社も提供するようになったが、リビング・ニーズ特約の場合、余命がわずかとわかっている被保険者に死亡保険金を支払うという点において若干抵抗感をもたれることもあると考えられる。その点、生命保険信託の場合、被保険者の死亡を契機として、しかも受益者への保険金の交付は被保険者の意思が反映できるものであるため、信託という法形式を活用することにより、リビング・ニーズ特約の目的を、被保険者の抵抗感なく達成していると評価できる。
もともと信託は英米法系の仕組みであるため、大陸法系に属する我が国では本来的な信託は馴染みが薄いと思われるが、英米法系では浪費者等受益者(子)の財産管理能力に不安がある親などが利用する Spendthrift Trust 等多様な信託が利用されてきた。我が国でもそれらを利用できる場面では積極的に活用することが望ましいと思われ、受賞候補者が開発した生命保険信託は、そのような意味からも先駆的であり授賞に値すると考える。
知的障害者の親子で、親が自分の死後の、子どもの生活に対する不安は大きく。自分の子への想い・気持ちをどうやって残せばいいのかは大きな問題である。子を世話をしてくれる団体に、信じて託すしかないのが現状。それでも早めに、後見人として理解のある第三者を選任したり、遺言を残すなどが、これまで行われてきた。子の一生涯の生活を考えるなら、ある程度の財産を子に残せれば、ゆたかな生活を送れる可能性はあるが、しかしその財産の使い方は、後見制度では後見人が全て決めることになる。そこに親の願いは必ずしも反映されない。親の意思を文書で残す活動をNPOの法人後見の支援で行いつつあるが、それを更に進めたものが、財産を残すための生命保険の活用と、信託によって具体的な使い方を決めることができるツールをこの生命保険信託はもっている。この事業の中にライフプランナーと福祉の専門相談員の共同があると、より活用の幅は広がるのではないでしょうか。親の死後の、その子の生活を組み立てる上での選択肢の一つとしてこの生命保険信託の利用が位置づけられると思います。
第2回学会賞(2017年11月授与)
■著作賞
著作名「事業承継・相続対策に役立つ家族信託の活用事例」平成28年10月 清文社
著者:長崎 誠 様(公証人)竹内裕詞 様(弁護士)小木曽正人 様(公認会計士・税理士)丸山洋一郎 様(司法書士):4名とも本学会会員
【要旨】
家族信託を利用して事業承継、相続対策を行う実務家のための解説書として、実際に家族信託を組成して活動を行っている公証人、弁護士、公認会計士・税理士、司法書士が、自らの経験に基づいて執筆したものである。
前半は家族信託の概要と信託法の解説を、後半は実際に執筆者らが担当した案件の内容と家族信託組成のために作成した書面や手続について紹介している。近年、家族信託が事業承継、相続対策の手法として注目されており、家族信託をテーマにした著作が多く執筆、発行されているが、信託で対応が可能と思われる事案の提案や、仮想事例に対する信託条項のひな形が紹介されているものの、実際に信託を組成するときに直面する問題への対応には参考にならないものも多かった。本書は実際に信託を組成した経験を踏まえて、信託を組成したときに工夫した事柄(例えば会社の目的の登記時の登記官との折衝、会社定款の定め方、総会・役会議事録の記載内容、税務申告書類の作成方法など)を紹介し、家族信託を組成する実務家の需要に応えようとするものである。
【査読意見書から】
本書は、実務家が事例に基づいて家族信託の実務を学ぶ入門書としては、分かりやすく網羅的に執筆されている。「相続問題の啓発及び教育に著しい貢献をしたと認められる実践的な著作」に該当する。
任意後見と信託の役割分担は違いますが、新しいスキームを作ることで、高齢者が快適に生活でき、環境を整えてあげる工夫が良く記述されていて、実務を実行していくうえで参考になる書籍である。
■業績賞
業 積「知的障がい者の後見・遺言を支援する実践活動」
林 俊和 様(特定非営利活動法人 さぽさん 理事長):本学会会員
【要旨】
知的障がい者の成年後見の分野では、これまでは専門職の後見人であっても、障害の理解が十分になされなかったり、財産管理に主点を置いて後見がなされ、被後見人の希望(ニーズ)に対応がされないことも散見された。林氏は、2003年から社会福祉士として個人で後見人を受任し、後見事務を行う中で、知的障がい者の被補助人が自分の相続について希望を述べ、それを実現させるために公正証書遺言を作成する支援を経験して、被後見人の相続について研究するようになった。現在後見相当と考えられる知的障害者も、自分の相続について希望がある事例に関わりながら、後見の申立の前に遺言を作成することが出来るのではないかと、弁護士と相談しながら支援をしている。後見についても、個人ではなく継続して身上監護をしていける、新たな法人後見の組織の設立を準備している。本人の意思に基づく後見が、国において検討されている情勢の中で、林氏の活動は本人に寄り添う後見や、相続のあり方についての課題や問題の提起をしている。
(林氏著:事例研究発表「知的障がい者の後見・遺言を考える」の最終項より:『かわいそうの心からは、特別扱いが出てくる。人として尊重する気持ちからは、(合理的)配慮が生まれる。障害があっても、なくても皆が尊重される社会を願っている。』)
【査読意見書から】
自らの意見を表明する機会が得られにくい知的障がい者の相続に係る支援において、ともすれば軽視されがちな当事者の意思を「生きた証」として後生に生きる親族や関係者に継承していく営みの重要性を主張する候補者の価値および実践姿勢は、相続に係る実務家で構成される貴学会の会員にも広く周知されてほしいと、社会福祉実践及び研究に携わる査読者の立場からも強く願うものである。候補者は、知的障害者の権利擁護、とりわけ相続や遺言書作成に係わる支援において、障害者総合支援法や成年後見制度等の制度的限界や制約を超克すべく、生活支援の拠点と共に法人後見が可能な拠点として特定非営利活動法人を設立し、生活者の視点で障がい当事者に寄り添う伴走型支援に従事してきた。
障がい者の家族が、安心して任せられる組織をというところから、法人後見及びグループホームの運営を実現。これをきっかけに地域での支援を広げている。少子高齢化の時代には地域での支援が不可欠であり、支援の具体的方法として有用なものと考えます。
第1回学会賞(2016年11月授与)
■論文賞
論文名「民法から争族を見る -遺言・贈与と遺留分-」
常岡 史子 様 (横浜国立大学 国際社会科学研究院 教授)
【要旨】
民法の遺留分制度は、被相続人の贈与や遺言よる財産処分に対して一定範囲の相続人に相続財産の一部を保障する制度とされており、そこには共同均分相続主義のもとでの相続人間の公平や生活保障等の意味がある。しかし、被相続人が一部の相続人のためになす財産処分は、往々にして事業の承継や特別な保障を必要とする相続人の生活の保護という目的を持ち、死後の財産承継について示されたその意思をどのように貫徹すべきか、また、そのような死者の意思に対して相続人の遺留分権はどこまで守られるべきかという問題が生じる。しかもこの問題は、通常、被相続人の死後に残された共同相続人間の紛争という形で現れる。本稿では、遺留分をめぐる近時の最高裁の4判例を題材に、相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定方法、相続分の指定や特別受益の持戻し免除の意思表示に対する遺留分減殺請求、価額弁償請求権と弁償額の確定について考察する。(論文より)
【査読意見書から】
本論文は、詳細な検討を通じて、現行民法の遺留分諸規定の問題点を明らかにしている。というのも民法の遺留分規定は、明治民法の条文をほぼそのまま受け継いだものであるところ、明治民法で主として念頭に置かれていたのは、単独相続人たる家督相続人が(自分以外の)第三者である受贈者・受遺者に対して遺留分減殺請求権を行使する場合であった。ところが、現代の相続法は、共同相続を前提としている。それ故、共同均分相続制度のもとで各相続人の遺留分をいかに確保するかという現行相続法に特有の問題に民法の諸条文は必ずしも対応しきれていないため、「争族」が起こりやすく、また裁判外での解決が困難になっている。個別論点についての正確な理解、また、明快な説明、図解と相まって、本論文は、理論的、実務的に有益なものとなっている。紛争の予防を行うのが実務家の重要な職責であるが、本論文のような紛争事例についての最高裁判決の分析に学ぶことは実務にも確かな基礎を与える。
■著作賞
著作名「延納適用と相続税納税制度」平成27年9月 一般社団法人大蔵財務協会
右山昌一郎 様 (日本税務会計学会 顧問)
【要旨】
相続開始後に延納制度があり、所得税・法人税にみられる確定納税前の予定納税制度に準じた相続税予納制度が皆無であることは、国が相続税納付の困難性に対して相続税の納税義務者の自主的納税に配慮していないものと解することができます。
相続は、相続税を支払うために存在するものではありません。
むしろ被相続人の相続の目的は、相続人の事業承継又は居住用財産の取得等による生計の安定を願う幸福追求権に求められます。そう考えた場合、相続税は推定被相続人の生存中に相続税納税負担の解消方法を生前の制度として考慮すべきものです。
したがって、被相続人が生前に所有財産を目安として、推定相続人のために相続税を生前に遺言信託の一種の相続税納付条件付信託として、予納しておくことは、我が国の相続を包括承継という本来の姿に導くものであり、かつ、推定被相続人の家族に対する最大の愛情の表現であるといえます。そうした意味から、以下に述べる「相続税予納制度(案)」を提起するものです。(著書より)
【査読意見書から】
本書の白眉は相続税の予納制度(案)の提言にある。相続税の予納制度(案)は、被相続人が生前に所有財産を目安として、推定相続人のために相続税を相続税納付条件付き信託として予納するという制度であり、これにより納税側にとっては納税の困難性を解消することができ、また、徴税側にとっても確実な徴税を行うことができるというように納税側と徴税側のいずれにとってもメリットのある制度である。この制度は「相続問題の中心が、相続税の納付にあることに違和感を持ち」、「被相続人の相続の目的は、相続人の事業承継又は住居用財産の取得等による生計の安定を願う幸福追求権に求められる。」とする筆者の一貫した考えに基づくものであり、この制度を活用することにより納税側及び徴税側双方のメリットを図ることができるばかりでなく、相続財産の安定的な承継を実現し、かつ相続税の納税のために残された家族に負担をかけたくないという被相続人の意志も反映することができる。すなわち、相続制度の本来的目的を実現でき、かつ被相続人の残された家族に対する愛情をも実現することができるのである。